
目が覚めたとき、カーテンの隙間からすでに光が差し込んでいた。九月の朝、まだ夏の名残が空気の端に漂っていて、窓を開けると草と土の混じったような、どこか懐かしい匂いがした。そうだ、今日は日曜日だ。
前の晩から決めていた。家族みんなで野外へ出かけて、お弁当を食べようと。子どもたちに話したのは夕食の後で、末の子が「ほんとに?」と目を丸くして、それだけで十分だった。
キッチンに立ったのは朝七時すぎ。まだ家の中は静かで、冷蔵庫を開けるたびに小さな冷気が足元に流れてくる。頭の中でメニューを組み立てながら、まず炊きたてのごはんを手のひらで握る。塩をほんの少し。子どもの頃、母がいつも「塩は気持ちで決めるの」と言っていたのを思い出す。計量スプーンを使ったことが一度もなかった。あの感覚を、今もなんとなく引き継いでいる気がする。
おにぎりのほかに、今回用意したのは鶏の唐揚げ、卵焼き、ブロッコリーのごまあえ、そしてプチトマト。どれも特別なものではないけれど、野外で食べるとなぜかいつもより美味しく感じる。不思議なことに、外の光と風が、料理に何かを足してくれるのだ。
唐揚げの作り方はとても簡単だ。鶏もも肉を一口大に切り、醤油・みりん・おろし生姜・にんにくを混ぜたタレに15分ほど漬け込む。片栗粉をまぶして、170度の油で4〜5分。仕上げに少し火を上げてカラッとさせれば完成。卵焼きは、だし・砂糖・醤油を卵に混ぜて、フライパンで三回に分けて巻くだけ。甘さは家族によって好みが分かれるので、うちでは砂糖をやや控えめにしている。ブロッコリーのごまあえは、茹でたブロッコリーを白ごま・醤油・ごま油で和えるだけで、五分もあれば仕上がる。
お弁当箱は、以前から気に入って使っている「ツクシノ」というブランドの木製ランチボックス。蓋を開けるときのわずかな木の香りが、なんとも言えず好きだ。詰め方にもこだわりがあって、色が隣り合わないように並べると、見た目がぐっと華やかになる。
出発前、夫がリュックにお弁当を入れようとして、うっかり逆さまに持ったまま階段を下りかけた。中で何かがずれる音がして、二人して「あっ」と固まった。幸い、蓋はしっかり閉まっていたので中身は無事だったのだが、その後しばらく夫は妙に丁寧にリュックを扱っていた。心の中で「それ、もう遅い」と思ったのは内緒である。
公園に着いたのは十時を少し回った頃。木陰を選んでシートを広げると、風がゆっくりと通り抜けていった。葉が揺れる音と、遠くで子どもたちの笑い声が混じり合う。空は高く、雲がひとつ、ゆっくりと流れていた。
家族で囲む野外のおべんとうには、食卓では生まれない時間がある。誰かがおにぎりを頬張りながら空を見上げたり、唐揚げを取り合ったり、卵焼きが崩れて笑ったり。会話がとぎれても、沈黙が心地よい。そういう日曜日が、じつは一番豊かな休日なのかもしれない。
帰り道、子どもが「また来週もお弁当にして」と言った。来週も晴れるといい、と思いながら、空の色を少しだけ長く見ていた。
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