
九月に入っても、空はまだ夏の名残を引きずっている。朝八時ごろ、カーテンを開けると光がまっすぐ差し込んできて、思わず目を細めた。今日は土曜日だ。友人と遊ぶ約束がある。それだけで、なんだか少し背筋が伸びる気がした。
前日の夜から、おべんとうを仕込んでいた。子どものころ、母が運動会の朝に台所でごそごそと音を立てていた記憶がある。あの、出汁巻き卵を焼くときの甘い香り。フライパンが少し焦げたときの、かすかに煙たい匂い。ああいう朝の台所の空気が、今でも好きだ。自分でおべんとうを作るようになって初めて、あの音と香りの意味がわかった気がする。
今回のおべんとうのメインは、鶏の照り焼きと、ごまたっぷりのひじき煮、それから甘辛に仕上げたきんぴらごぼう。ごはんは塩むすびにした。野外で食べるなら、おにぎりが一番だと思っている。ラップでぎゅっと握るだけでいいし、手が汚れても食べやすい。難しいことは何もない。
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**簡単な作り方**(鶏の照り焼きむすびセット)
**材料(2人分)**
– 鶏もも肉:1枚
– 醤油・みりん・砂糖:各大さじ1
– ごはん:茶碗2杯分
– 塩:少々
– ひじき(乾燥):大さじ1、にんじん・油揚げ適宜、醤油・みりん・砂糖で甘辛に煮る
**手順**
1. 鶏もも肉を一口大に切り、醤油・みりん・砂糖を合わせたタレで炒め、照りが出るまで中火で焼く。
2. ひじきは水で戻し、にんじん・油揚げと一緒に出汁なしで炒め煮にする。
3. ごはんに塩をひとつまみ混ぜ、ラップで丸く握る。
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十時すぎに待ち合わせたのは、駅から歩いて二十分ほどの「緑川公園」。地元では知る人ぞ知る、芝生の広場がある静かな場所だ。友人の彩(あや)は先に来ていて、大きなレジャーシートをすでに広げていた。「おそーい」と笑いながら、こちらにペットボトルを投げてきた。受け取れなかった。ごろごろと草の上を転がるボトルを二人で眺めて、なんとなく笑った。
シートに腰を下ろすと、草の青い匂いが鼻をついた。まだ少し湿気を含んだ土の感触が、シート越しにじんわりと伝わってくる。空は高く、雲がゆっくりと西へ流れていた。
おべんとうの蓋を開けると、彩が「わ、ちゃんとしてる」と言った。ちゃんとしてる、という言葉が妙に嬉しかった。鶏の照り焼きは、タレが少しご飯に染みていて、それがまたちょうどいい。おにぎりは、握りすぎて少し硬くなっていたけれど、野外で食べるとなぜか余計においしく感じる。これは気のせいではないと思う。
彩が持ってきたのは「ソレイユ・ブルー」という小さなブランドの保冷バッグで、中から麦茶と、手作りのクッキーが出てきた。「余ったから」と言いながら渡してくれる、その何気ない仕草が好きだ。受け取るたびに、ああこの人と友人でよかったと思う。大げさに聞こえるかもしれないけれど、本当にそう思う。
土曜日の午前中の公園は、犬を連れた人や、小さな子どもを連れた家族が行き交っていた。遠くでボールを蹴る子どもの声が聞こえて、風が一瞬強く吹いて、おべんとうの蓋が飛びそうになった。あわてて押さえながら、友人と遊ぶ時間というのは、こういう些細な出来事が積み重なってできているのだと思った。
野外でおべんとうを食べる、というのは、それ自体が特別な行為だ。同じ料理でも、空の下で食べると味が変わる。光の角度が変わるたびに、ごはんの色が少し違って見えた。
次の土曜日も、こんな時間が作れたらいい。そう思いながら、麦茶をひと口飲んだ。ぬるくなりかけていたけれど、それでも十分においしかった。
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