
梅雨の合間に、珍しく空が青く抜けた土曜日の朝のことだった。時計の針が7時を少し回ったころ、台所に立つと、窓から差し込む光がまだ柔らかくて、ひんやりした空気がキッチンの床を伝ってくる。今日は友人と遊ぶ約束がある。場所は、駅から歩いて15分ほどの「緑ヶ丘市民公園」。芝生が広くて木陰も多く、野外でのんびりするのにちょうどいい。さあ、おべんとうを作ろう。
冷蔵庫を開けると、昨日の買い物で揃えた食材が並んでいた。卵、鶏のもも肉、ブロッコリー、プチトマト、そしてご飯は朝に炊き直したもの。何から手をつけようかと少し迷って、まず卵焼きから始めることにした。卵2個を溶いて、だし少々と砂糖ひとつまみ、醤油数滴を加える。フライパンにじんわりと熱が入ったころ、卵液を流し込む音がした。シュッという、あの小気味いい音。子どもの頃、母が毎朝立てていたのと同じ音だ。あのころは、台所のその音で「今日も学校か」と目が覚めたものだった。
卵焼きを巻き終えて形を整えていると、鶏もも肉の下味をつけるのを忘れていたことに気づく。慌てて醤油・みりん・にんにくチューブを合わせたタレに漬け込み、フライパンへ。皮目からじっくり焼くと、脂がじわじわと染み出してくる。香ばしい匂いが部屋に広がって、これだけで食欲が刺激される。ブロッコリーは小房に分けてレンジで2分。プチトマトはそのまま洗って水気を拭くだけ。この「そのまま」が地味に大事で、水分が多いとご飯が傷みやすくなるから、野外でのおべんとうには特に気をつけたい。
詰める順番にも少しだけこだわる。まずご飯をふんわりと敷いて、仕切りに卵焼きを立てかけ、鶏の照り焼きを斜めに並べ、ブロッコリーとトマトで色を添える。完成したおべんとうを眺めると、なんとなく満足感がある。緑、赤、黄色が揃って、思ったよりずっと華やかだ。
ちなみに、今日は友人のすみれちゃんのリクエストで「飲み物も手作りで」と言われていたのだが、正直なところ、それはうっかり忘れていた。コンビニで「ハーブレモネード」でも買っていこうと心の中でそっと決めたのは、出発5分前のことである。
公園に着くと、すみれちゃんはもうレジャーシートを広げて待っていた。木陰のちょうどいい場所で、風が葉をさらさらと揺らしている。「わあ、すごい!ちゃんと作ってきたんだね」と彼女が言って、おべんとうの蓋を開けたとき、少し誇らしい気持ちになった。野外で食べるごはんは、どうしてこんなに美味しく感じるのだろう。空気のせいか、光のせいか、それとも友人と遊びながら食べるという解放感のせいか。きっと全部が重なっているのだと思う。
土曜日のおべんとうは、特別なレシピじゃなくていい。冷蔵庫にあるもので、30分あれば十分に作れる。卵焼き・鶏の照り焼き・ブロッコリー・プチトマト、この4品を揃えるだけで、色も栄養もバランスが取れる。「映えるおべんとう」を目指さなくても、丁寧に詰めるだけで自然と美しくなる。そして何より、野外で広げたときの「わあ」という声が、一番のご褒美だ。
今度の土曜日も、また誰かと外でおべんとうを食べたい。そんなことを思いながら、空の青さを見上げた午後だった。
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