水曜日のおべんとう、週の折り返しに自分を甘やかす一箱

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梅雨の気配がじわりと漂いはじめた六月の朝、台所に立つとどこからかやわらかい湿気が足元を包む。窓の外はまだ薄暗く、換気扇を回すと雨上がりの土の匂いがかすかに流れ込んできた。そんな朝に作るおべんとうは、なぜかいつもより丁寧になる。

水曜日というのは不思議な曜日だと思う。月曜の重さも、金曜の軽さも持っていない。ただ静かに、週の折り返し地点として立っている。会社に着いて、デスクに鞄を置いて、ふと「今週あと半分か」と気づく瞬間。そのとき手元にあるおべんとうが、ちょっとだけ自分を励ましてくれる存在になったりする。

思えば小学生のころ、遠足のおべんとうだけが月曜日から楽しみで、母が卵焼きに砂糖を入れすぎて妙に甘くなったあの味を、今でも思い出す。あの甘さが失敗だったのか正解だったのか、いまだによくわからない。ただ、あのおべんとう箱を開けたときの感覚だけははっきり覚えている。胸のあたりがふわっとした、あの感じ。

水曜日のおべんとうに、わたしがここ最近よく詰めているのが「豚こまの梅しそ炒め」だ。豚こま肉をさっと炒めて、梅干し・みりん・醤油で味をつけ、最後に千切りの大葉をのせるだけ。冷めても味が落ちないし、ご飯との相性が抜群で、なにより朝の十五分で完成する。

【豚こまの梅しそ炒め・簡単な作り方】
豚こま肉150gを中火で炒め、色が変わったら梅干し一個(種を除いてたたく)・みりん大さじ1・醤油小さじ1を加えて全体にからめる。火を止めてから千切りにした大葉を3〜4枚のせれば完成。梅の酸味が夏の蒸し暑さにも負けず、食欲をそっと引き上げてくれる。

先日、うっかりみりんと醤油の分量を逆に入れてしまい、ずいぶん甘ったるい仕上がりになってしまった。お昼に会社の給湯室でそっとひと口食べて、心の中で「あ、やってしまった」と静かにツッコんだのは内緒の話である。

おべんとう箱は、インテリア雑貨ブランド「ハコノナカ」の木目調ランチボックスを愛用している。蓋を開けるたびに薄くヒノキの香りがして、それだけで気持ちが少し整う気がする。プラスチックのそれとは違う、手のひらに伝わる木のひんやりとした感触も好きだ。

水曜日の昼休み、会社の窓際の席でそのおべんとうを開ける。外では小雨が降っていて、ガラス越しに街路樹がしっとり濡れているのが見える。梅しその香りがふわっと立ちのぼって、隣の席の同僚がちらりとこちらを見た。「いい匂いですね」と言いながら、自分のコンビニ弁当のフィルムをはがしている。その小さなやりとりが、なんとなくあたたかかった。

週の折り返しを越えれば、あとは下り坂だ。木曜、金曜と転がるように週末に向かっていく。でも水曜日だけは、そのまんなかにいる感覚がある。急がなくていい、もう少しだけここにいていい、とおべんとうが言っているみたいで。

だから水曜日の朝は、少しだけ早起きして、自分のためのおべんとうを作る。梅の酸っぱさと大葉の清々しさを詰めて、木の箱に蓋をする。それだけのことが、なぜかその日一日の背骨になる。
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