
月曜日に張り切って、火曜日に少し慣れて、水曜日で息継ぎをして——それでも木曜日というのは、なぜかいちばん長く感じる。あと一日、もう一息なのにと思いながら、朝の台所に立つ。外はまだ薄暗く、6月の湿った空気が窓から漂ってくる。エアコンをつけるほどではないけれど、少し蒸す。そんな木曜日の朝に、今日は少しだけ自分を甘やかすことにした。
きっかけは小さなことだった。先週の木曜日、会社のデスクでコンビニのおにぎりを食べていたとき、隣の席の田中さんが手作り弁当の蓋を開けた瞬間、ふわっと梅の香りが漂ってきた。それだけのことなのに、なぜかじんわりと胸に刺さった。ああ、自分もお弁当を持ってきたい、と。子どもの頃、母が毎朝作ってくれたアルミのお弁当箱を思い出した。卵焼きが少し焦げていて、でもそれが妙においしかった。あの焦げた甘さを、また食べたい気がした。
そこで考えたのが「梅しそ鶏そぼろ弁当」だ。材料はシンプル。鶏ひき肉、梅干し、大葉、しょうゆ、みりん、砂糖。それだけでいい。フライパンに鶏ひき肉を入れて中火で炒め、色が変わったらしょうゆ大さじ1、みりん大さじ1、砂糖小さじ1を加える。種を取ってたたいた梅干し1個分を混ぜ込んで、水分が飛ぶまで炒め続ける。仕上げに千切りにした大葉をさっと和えるだけ。所要時間は10分もあれば十分だ。ご飯の上にたっぷりのせて、隙間にだし巻き卵と茹でブロッコリーを詰めれば完成する。
2026年春、お弁当グッズの新商品も続々と登場しているが
、お弁当の本質はやっぱり中身にある。どんなにおしゃれなランチボックスでも、中身がコンビニのおかずでは少し寂しい。かといって、凝りすぎて続かないのも本末転倒だ。この梅しそそぼろは、冷めてもおいしいのが最大の利点で、朝に作って昼まで待つあいだも味がなじんでいく。
2026年の食トレンドとして「自分のために作る、自分をいたわる料理」へのニーズが高まっている
と言われているけれど、木曜日の会社弁当こそ、まさにそれだと思う。誰かのためでなく、週の終盤を乗り切る自分自身への小さなエール。梅の酸味が疲れた胃を目覚めさせ、大葉の清涼感が口の中をすっきりさせてくれる。
お弁当箱を開ける瞬間の話をもう少しだけ。先日、はじめてこのそぼろ弁当を職場に持っていったとき、蓋を開けたら大葉が少し変色していた。緑が黒ずんで、なんとも言えない見た目になっていた(大葉は詰める直前に和えるべきだったと、そのとき初めて知った)。でも味は問題なく、むしろ梅の風味がより深くなっていて、結果的においしかった。失敗も、お弁当の醍醐味のうちかもしれない。
健康志向の高まりとともに、食物繊維が豊富で腹持ちのいい食が求められている
今、鶏ひき肉と梅という組み合わせは栄養的にも理にかなっている。鶏肉は高たんぱく低脂質で、梅干しにはクエン酸が含まれ疲労回復にも効果的とされる。木曜日の午後、会議が続いて頭がぼんやりしてくる時間帯に、このお弁当を食べ終えたあとの軽やかさは格別だ。
弁当箱を選ぶのも、実は楽しみのひとつになった。最近お気に入りなのは、「ハコモリ食器」というブランドの杉材を使ったお弁当箱だ。木の香りがほんのり移って、梅しそそぼろとの相性が思いのほかよかった。蓋を閉めると、なんとなく旅に出るような気持ちになる。実際はただの木曜日の会社なのだけれど。
週の後半、あと一日でもう一息というこの日に、手作り弁当を持って出かけてみてほしい。昼休み、窓際の席で蓋を開けたとき、梅の香りがふわりと広がる。それだけで、午後の仕事が少しだけ軽くなる気がする。木曜日は、自分をいたわる日にしよう。
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