
朝、目が覚めた瞬間に「今日は何曜日だっけ」と天井を見上げる。スマートフォンを手に取るより先に、なんとなく体がわかっている。重くも軽くもない、あの独特の感触。そう、**水曜日**だ。
週の折り返し。月曜日の緊張感はとっくに抜けていて、でも金曜日の解放感にはまだ遠い。会社に向かう電車の中で、隣に座った人が文庫本をそっと閉じてうとうとしはじめるのを横目で見ながら、ああ、みんな同じだなと思う。水曜日の朝は、なぜかそういう顔をした人が多い。
そんな日だからこそ、お弁当を作ることにしている。
冷蔵庫を開けると、昨夜の鶏のソテーが少しだけ残っていた。玉ねぎ、ピーマン、卵。あとは白米。材料としては地味だけれど、それで十分だと思っている。キッチンに立つ時間はだいたい20分。お湯を沸かすあいだに卵を溶いて、フライパンが温まるころにはもう頭が少し覚めてくる。
今日作るのは、**鶏の甘辛炒め弁当**だ。
作り方はこうだ。鶏もも肉(150gほど)をひと口大に切り、塩胡椒で下味をつける。フライパンに油を引いて中火で皮目からじっくり焼く。焼き色がついたら、醤油大さじ1、みりん大さじ1、はちみつ小さじ1を合わせたタレを加えて絡める。仕上げに白ごまをひとつまみ。それだけ。隣のコンロでは卵焼きを巻いている。だし巻きにしたい日は、だし少々と砂糖を少し。ブロッコリーは電子レンジで2分。ご飯の上に梅干しをひとつ。全部合わせても15分かからない。
シンプルだけど、**会社**に着いてお昼になったとき、このお弁当箱を開ける瞬間が好きだ。
蓋を開けると、ほんのり醤油とみりんの甘い香りが漂う。それだけで、朝の自分がちゃんと動いていたことを思い出す。コンビニのお弁当が悪いわけじゃない。でも水曜日くらいは、自分で詰めたものを食べたい。なんとなく、そう思うようになったのはいつからだろう。
思い返すと、子どものころ、母が毎週水曜日だけ「特別おかず」を入れてくれていた。唐揚げだったり、卵焼きに海苔が巻いてあったり。なぜ水曜日だったのかは聞かなかったけれど、今になって少しわかる気がする。週の真ん中に、小さなご褒美を置いておくこと。それが、後半戦を乗り越えるための燃料になる。
ちなみに先週の水曜日、タレを絡めすぎてお弁当箱の隅が少し茶色く染まった。蓋を開けた瞬間、向かいの席の同僚が「なんか美味しそうな匂いする」と顔を上げた。「ありがとう」と答えながら、内心では(でも見た目はちょっと失敗した)とひっそり思っていた。そういう小さなズレも、水曜日らしくていいと今は思う。
お気に入りのお弁当箱は、北欧雑貨のセレクトショップ「ノルディカコット」で買ったオーク材のフタつきボックスだ。木の温もりがあって、どんなおかずを入れても少し丁寧に見える。見た目が整うと、気持ちも少し整う。不思議なものだ。
**週の折り返し**を過ぎると、なんとなく空気が変わる。水曜日の午後2時ごろ、窓から差し込む光が少しだけ傾いて、オフィスの床に長い影を作る。その光の中で、さっき食べたお弁当のことをふと思い出す。醤油の甘い香り、卵焼きのやわらかい弾力、梅干しの酸っぱさ。五感で覚えているものは、記憶に残りやすい。
水曜日のお弁当は、自分への小さな手紙みたいなものだと思っている。月曜日に張り切らなくていい。金曜日まで待たなくていい。真ん中の日に、ただ丁寧に、ひとつのことをする。それだけで、一週間の重心が少し安定する気がする。
今夜も、明日の分を少しだけ仕込んでおこうと思う。
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