
前の晩から、なんとなく決めていた。明日は家族で外に出よう、と。特別な計画があったわけじゃない。ただ、週末の夜に子どもが「明日どこか行く?」と聞いてきて、思わず「お弁当持って公園でも行こうか」と答えてしまっただけだ。それが、日曜日の朝をすこしだけ特別なものにした。
九月の朝は、まだ夏の残り香がある。窓を開けると、ひんやりした空気の中に草の匂いが混じって流れ込んでくる。キッチンに立つと、足の裏にフローリングの冷たさが伝わってきた。夏の終わりの、あの独特の温度感。子どものころ、母が早起きして台所でごそごそしていた音を思い出す。あの音が、日曜日の朝の合図だった気がする。
さて、おべんとうを作ろう。
まず冷蔵庫を開ける。昨夜の残りの鶏のから揚げ、ちょっと多めに作っておいてよかった。卵を三つ取り出して、だし巻き卵をつくる。フライパンに薄く油をひき、溶いた卵液を流し込む。じゅわっという音と、ふわりと立ち上がる出汁の香り。くるくると巻いていくうちに、形がすこし崩れた。まあいい、家族用だから。(心の中でこっそり「プロじゃないし」とつぶやいた。)
ご飯は前日に炊いておいたものを使う。梅干しとごまを混ぜて、おにぎりを握る。三角形を目指すのだが、なぜか毎回微妙に丸くなる。それはそれで、手作り感があっていいと思うことにしている。
野外で食べるお弁当は、とにかく「崩れにくさ」が命だ。汁気の多いものは避けて、おかずはしっかり冷ましてから詰める。これが食中毒予防の基本でもある。ブランド「ハコモリ」のくすみグリーンのランチボックスに、仕切りを使いながら色が偏らないよう意識して詰めていく。赤いプチトマト、黄色のだし巻き卵、茶色のから揚げ。緑はブロッコリーをさっと塩茹でして添えた。
家族のおべんとうは、見た目が半分くらい大事だと思っている。野外で蓋を開けた瞬間に「わあ」って言ってもらえると、それだけで早起きした甲斐があるというものだ。
簡単な作り方をまとめると、こうなる。前夜に揚げ物や煮物など「温め直しても美味しいもの」を多めに作っておく。朝は卵料理とご飯もの(おにぎりかサンドイッチ)を足すだけで完成する。彩りに困ったら、プチトマトとブロッコリーがあれば大体どうにかなる。これが、わが家の日曜おべんとうの黄金パターンだ。
出かけたのは、家から自転車で十五分ほどの「三ツ葉川緑地公園」。川沿いに芝生が広がっていて、木陰がちょうどいい具合にある。シートを広げて座ると、川のせせらぎの音がすぐそこから聞こえてきた。風が吹くたびに、木の葉がさらさらと揺れる。
子どもはさっそくシートの端から転がり落ちそうになりながら、お弁当箱の蓋を開けた。「から揚げある!」と声を上げて、秒で手を伸ばす。だし巻き卵には「これ形おかしくない?」とさらっと言われたが、全部食べていたので合格とする。
家族でこうして野外に出て、お弁当を食べる日曜日というのは、なんでもない日のはずなのに、なぜかずっと覚えていたりする。特別なことは何もなかった。川の音と、草の匂いと、少しいびつなおにぎりと。それだけで、十分だったと思う。
日曜日の午後、帰り道に子どもが「来週もお弁当持って来よう」と言った。来週も早起きしなければならない。でも、まあ、悪くない。
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