
五月の朝は、思いのほか光が白い。
カーテンの隙間からすっと差し込む朝の光が、台所のステンレスをやわらかく照らしている。時計は6時17分。月曜から数えてもう四日目、木曜日の朝だ。体はまだ布団のぬくもりを覚えていて、どこかぼんやりしたまま冷蔵庫を開ける。
会社に持っていくおべんとうを、今日は少しだけ丁寧に作ろうと思った。
週の後半、木曜日というのは不思議な曜日だ。もう一息で週末なのに、なんとなく気力が底をついてくる。会議は午後にも詰まっているし、資料の修正依頼がまた来るかもしれない。そういう日の昼食こそ、外のコンビニ飯より、自分で作ったおべんとうのほうがずっと心強い。
今日のメインは「豚の生姜焼き」にすることにした。
豚ロース薄切りを4〜5枚、しょうゆ・みりん・酒を各大さじ1、すりおろし生姜を小さじ1で混ぜたタレに5分ほど漬け込む。フライパンをしっかり熱してから豚肉を並べ、タレごと流し込んで中火で焼く。焦げ目がついたら裏返し、全体に照りが出たら完成。所要時間は10分もかからない。シンプルだけど、これが意外と飽きない。子どもの頃、母がよく作ってくれた味に近くて、食べるたびに少し懐かしい気持ちになる。
副菜は、前日の夜に仕込んでおいたほうれん草のごま和え。ほうれん草をさっと茹でて水気を絞り、すりごま・しょうゆ・砂糖少々で和えるだけ。冷蔵庫で一晩置くと味がなじんで、むしろ朝より美味しくなっている。ごまの香ばしい匂いが、眠い朝の台所にふわりと漂ってくる。
もう一品、彩りに卵焼きを加えた。
卵2個を溶いて、だし少々と塩ひとつまみだけで味をつける。甘くない、出汁巻きに近いやつ。これを巻くとき、いつも一度は形が崩れる。今日も案の定、三回目の折り返しでぐずぐずになった。まあ、味は変わらないし、蓋をしてしまえばわからない——と心の中でこっそりつぶやきながら、それでもなんとか弁当箱に収める。
白いご飯を詰めて、梅干しをひとつのせる。
「ハコモリ」というインテリア雑貨ブランドのシンプルな木製弁当箱を使い始めてから、なんとなく詰める作業が楽しくなった。仕切りがちょうどよく、おかずがずれにくい。見た目が整うと、それだけで少し気持ちが上がる。
会社に着いて、昼休みに蓋を開ける瞬間が好きだ。朝の台所の温度と、生姜の香りが、ふっと戻ってくる気がする。同僚が「いい匂いしますね」と言いながら自分のデスクに戻っていく後ろ姿を見ながら、もう一息、午後も頑張れそうだと思う。
木曜日のおべんとうは、自分への小さな約束みたいなものかもしれない。
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