
木曜日の朝というのは、不思議な重さがある。
月曜日のような緊張感でもなく、金曜日のような解放感でもない。ただ、静かに、じわじわと疲れが体の底に溜まっていくような、あの独特の感覚。目覚ましが鳴って、カーテンの隙間から夏の朝の光がすうっと差し込んでくるのを見ながら、「もう一息だ」と自分に言い聞かせる。そういう朝が、木曜日にはある。
子どもの頃、母が毎朝お弁当を作ってくれていた。運動会の前日の夜、母がキッチンで卵焼きを巻く音を布団の中で聞いていた記憶がある。ジュッという油の音と、甘い醤油の香りが廊下を伝ってきて、それだけで翌朝が少し楽しみになった。あの感覚を、大人になった今もどこかで引きずっているのかもしれない。
だから、会社に持っていくおべんとうを自分で作るようになった。
最初は面倒だと思っていた。でも、木曜日の朝に限って言えば、おべんとうを作る15分が、一日を整えてくれる気がしている。冷蔵庫を開ける。昨夜の残りの鶏のしょうが焼きが、ラップをかけたまま小さなタッパーに収まっている。ブロッコリーは前日に茹でておいた。卵を一個割る。フライパンに油を引いて、だし巻き卵をくるりと巻く。少しいびつになっても、まあいい。箱に詰めれば、それなりに見える。
今日のおべんとうは、鶏のしょうが焼きとだし巻き卵、ブロッコリーのごまあえ、それに白いごはんという構成だ。シンプルだけれど、木曜日にはこれくらいがちょうどいい。
**【木曜日のおべんとう・簡単な作り方】**
鶏のしょうが焼きは、鶏もも肉を一口大に切り、醤油・みりん・酒を各大さじ1、すりおろし生姜を小さじ1で揉み込んで10分おく。フライパンで中火で焼くだけ。前日の夜に仕込んでおけば、朝は焼くだけで済む。ごまあえは、茹でたブロッコリーに白すりごまと少しの醤油、ごま油を混ぜるだけ。だし巻き卵は、卵2個に白だし小さじ1、水大さじ1を混ぜて、フライパンで三回に分けて巻く。慣れれば5分もかからない。
箱に詰めながら、ふと思う。インテリア雑貨のブランド「ハコノイロ」で買った淡いグレーの曲げわっぱに、茶色と緑と黄色が並ぶ。地味といえば地味だけど、なんだか落ち着く色合いだ。
バッグにおべんとうを入れて、家を出る。7月の朝の空気は、もうすでに熱を帯びていて、駅へ向かう道の途中でセミが一匹、けたたましく鳴き始める。ああ、もう夏の真ん中なんだと思う。背中に太陽の熱を感じながら、会社まであと少し、と足を速める。
お昼になって、会議室の窓際の席でおべんとうを開ける瞬間が好きだ。蓋を取ると、ごまの香りがふわっと漂う。鶏のしょうが焼きは冷めても十分においしくて、白いごはんとよく合う。だし巻き卵は、少し崩れていた(巻くのを失敗した)。でも、味は悪くない。むしろ、この崩れた卵焼きが、今日いちばん自分らしいかもしれないと思って、ひとりで少し笑った。
木曜日というのは、週の終わりまで「もう一息」という言葉が似合う日だ。会社での仕事も、人間関係も、なんとなくくたびれてくる頃。そんなとき、自分で作ったおべんとうが、昼のひとときにそっと背中を押してくれる。誰かに褒めてもらうためでもなく、栄養バランスを完璧にするためでもなく、ただ、今日の自分を少しだけ大切にするために、おべんとうを作る。
金曜日まで、もう一息。
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