
朝、目が覚めた瞬間から、なんとなくわかる。今日は木曜日だ、と。
カーテンの隙間から差し込む七月の朝の光は、すでに夏の本気を帯びていて、窓を開けると湿った熱気がふわりと部屋に入り込んでくる。まだ六時半。台所に立つと、冷蔵庫の扉を開けた瞬間にひんやりした空気が足元をなでた。その感触だけで、少しだけ目が覚める気がした。
木曜日は、週のなかでもっとも「もう一息」という言葉が似合う日だと思う。月曜の緊張感はとうに溶け、火曜・水曜で消耗し、それでもまだ金曜には届かない。会社のデスクに座るとき、なんとなく背中が重い、あの感じ。だからこそ、お弁当にだけは少し力を入れたくなる。自分のために、というより、昼の十二時を生き延びるための作戦として。
子どもの頃、母が毎週木曜日だけ必ずたまご焼きを入れてくれていた。なぜ木曜日だったのか、理由を聞いたことがない。でも、お弁当箱のふたを開けるたびに黄色いそれが目に入ると、なんとなく「今日もいける」と思えた。あの記憶が、今でも木曜日のお弁当づくりを少しだけ丁寧にさせる。
今日のおかずは、鶏むね肉の梅しそ炒めにした。
作り方はとても簡単だ。鶏むね肉を薄くそぎ切りにして、片栗粉を薄くまぶす。フライパンにごま油を熱し、中火で両面をこんがり焼いたら、梅干し一粒をたたいてペーストにしたものと、めんつゆ小さじ二杯を加えて絡める。最後に千切りの大葉をのせれば完成。火を使う時間は七分もかからない。片栗粉のおかげで表面がつるりとして、冷めても柔らかさが残るのがいい。夏の弁当に梅の酸味は正解で、お昼に食べるときのあの爽やかな香りを想像しながら詰めると、朝の作業がほんの少し楽しくなる。
副菜は、ほうれん草のごまあえとミニトマト。彩りのためにトマトを入れようとして、転がしてしまい、シンク下に消えていったのを拾い上げるのに三十秒かかった。誰も見ていないのに少し恥ずかしかった。
ご飯は白米に黒ごまを散らして、インテリア雑貨ブランド「ハコモリ」の竹製弁当箱に詰める。このお弁当箱、蓋を閉めるとほんのり木の香りがして、それだけで気分が上がる。少し前に雑貨屋で一目惚れして買ったものだ。会社に持っていくと同僚に「それどこの?」と聞かれることが増えた。
昼休み、窓際の席でふたを開ける瞬間が好きだ。梅の香りが鼻先をかすめて、ほんのり温かい空気が立ち上る。会社のざわめきが少し遠のいて、十二時だけは自分のための時間になる。木曜日の昼はとくに、その感覚が濃い。もう一息、という言葉を、お弁当が静かに肩代わりしてくれているような気がするから。
金曜日はもうすぐそこにある。今日のお弁当を食べ終えたら、また少しだけ前に進める。そんな木曜日の、小さな話。
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