火曜日のおべんとう、がんばるぞのひとさじ

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月曜日の疲れがまだどこかに残っている、そんな火曜日の朝。目覚ましより少し早く目が覚めて、薄明かりの台所に立つ。冷蔵庫を開けると、昨夜の残りの鶏の照り焼きが小さなタッパーに収まっていた。「これ、使える」と思った瞬間から、今日のおべんとうが動き始める。

会社に持っていくお弁当を作り始めたのは、ちょうど去年の秋ごろだった。節約のためというより、どちらかといえば、昼休みの15分を自分だけの時間にしたかったから。コンビニのサンドイッチを立ち食いしていた頃と比べると、手作りのおべんとうを開けるときの小さな達成感は、思っていたよりずっと大きかった。

朝の台所は、静かで少し肌寒い。6月に入ったというのに、早朝はまだエアコンなしでも過ごせる。ごま油をひいたフライパンが温まってくると、じわりと香ばしい匂いが広がって、眠気がすこしほぐれていく。鶏の照り焼きを温め直しながら、隣のコンロではブロッコリーを塩茹でにする。ぽこぽこと小さく沸く音と、ごま油の香り。その二つだけで、朝の台所はもう十分に満ちている気がした。

今日のおべんとうのレシピはこうだ。まず白ごはんをふっくら炊いて、梅干しを一粒のせる。メインは昨夜の鶏照り焼きをそのまま流用。副菜には、ブロッコリーのごまあえと、卵焼き一本。卵焼きは砂糖少々と白だしで甘さを抑えめに仕上げると、しょっぱいおかずとのバランスがちょうどいい。最後に、ミニトマトを二つ転がして色を添えれば完成だ。所要時間はだいたい15分。難しいことは何もない。

卵焼きを巻くとき、欲張って具を入れすぎたせいで、端がぱかっと割れてしまった。まあ、味は同じだと自分に言い聞かせながら、そっとお弁当箱の隅に押し込んだ。見た目より気持ち、ということにしておく。

お弁当箱は、インテリア雑貨ブランド「ハコノソラ」の木目調の二段タイプを使っている。蓋を閉めると、なんとなく丁寧に生きている感じがして、それだけで気持ちが少し上向く。バッグに入れるとき、ほのかに温かくて、その熱がてのひらに伝わってくる。

火曜日というのは不思議な曜日だと思う。月曜日ほど気合いも入らないし、水曜日のように「折り返した」という感覚もない。どこか宙ぶらりんで、一週間の中でいちばん地味な一日。でもだからこそ、こういう日にこそ、お弁当が効く。昼休みに蓋を開けたとき、朝の自分が詰めてくれたものが並んでいる。それだけで、がんばるぞ、という気持ちがひっそりと戻ってくる。

子どもの頃、母が毎朝作ってくれたお弁当には、必ずたこさんウインナーが入っていた。遠足の日も、運動会の日も、なんでもない平日の火曜日にも。当時はあまり気にしていなかったけれど、今になって思えば、あの小さなたこさんには、毎朝の「いってらっしゃい」がちゃんと込められていたのだと分かる。

会社に着いて、デスクに鞄を置く。今日もメールが山積みで、午前中から会議が二本入っている。それでも、バッグの中にお弁当があることを知っているだけで、なんとなく踏ん張れる気がする。火曜日の昼休みは、12時きっかりに始まる自分だけの小さなご褒美だ。

手作りのおべんとうは、特別なものじゃなくていい。昨日の残りでいいし、冷凍のおかずを一品足すだけでも十分だ。大切なのは、朝のあの15分に、自分のために何かを作ったという事実だけ。それが、火曜日をほんの少し、やさしくしてくれる。
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