
目が覚めたとき、カーテンの隙間からまだ低い夏の朝日が床を斜めに切っていた。7月の朝は早くから蒸していて、台所に立つと額にじんわりと汗がにじむ。それでも、今日は水曜日だ。週の折り返し。そう思うだけで、なんとなく気持ちが変わる。
月曜日はまだ気力がある。火曜日はその余韻で乗り切れる。でも水曜日というのは、少し違う。会社のデスクに向かいながら、週末がようやく視界に入ってくる日。疲れているのに、あと少しだけがんばれる気がする、不思議な曜日だ。だからこそ、お昼のおべんとうにはほんの少し、自分へのご褒美を忍ばせたい。
子どもの頃、母が水曜日だけ卵焼きに砂糖を少し多めに入れてくれていた。特に理由は聞いたことがなかったけれど、なんとなく「水曜日の味」として記憶に残っている。あの甘さが、今もたまに恋しくなる。
そんな記憶もあって、わたしが最近お気に入りにしているのが「鶏の塩麹照り焼きべんとう」だ。前の晩に鶏もも肉を塩麹に漬けておくだけで、翌朝の調理は驚くほど簡単になる。冷蔵庫を開けるとほんのりと発酵の香りが漂い、それだけで「ちゃんと準備してた」という小さな達成感がある。
作り方はこうだ。鶏もも肉1枚(約250g)に塩麹大さじ1と少量のみりんをもみ込み、ジッパー袋に入れて一晩冷蔵庫へ。翌朝、フライパンに薄くごま油を引いて皮目から中火で焼く。じゅわっと脂が溶け出す音が台所に広がる頃、ひっくり返して蓋をして弱火で3分。仕上げに醤油を少し垂らして照りを出せば完成だ。これを食べやすい大きさに切って、ご飯の上に斜めに並べる。隣にゆでたブロッコリーと、前日の残りのきんぴらごぼうを添えれば、色のバランスもちょうどいい。
おべんとう箱は、「ナカムラ工藝」という架空の国産漆器ブランドのものを愛用している。曲げわっぱに近い木の香りがして、ご飯がほどよく水分を吸ってくれる。プラスチックのものとは明らかに違う、ふっくらとした食感になるのが気に入っている。蓋を開けたとき、木と塩麹と醤油の香りが重なって、一瞬だけ会社のデスクが消える。
先週の水曜日、うっかりおべんとうの蓋をしたままバッグに入れたら、中でご飯が少し崩れていた。並べた鶏肉が斜めどころか完全に横倒しになっていて、きんぴらが全体に散らばっていた。見た目は完全に事故現場だったけれど、味は変わらずおいしかった。……まあ、自分だけが食べるのだから、いいのだ。
会社の昼休み、同僚がふと「それ、いい匂いするね」と声をかけてきた。なんでもない一言だったけれど、なんだかうれしかった。自分のためだけに作ったつもりのおべんとうが、誰かの目に留まる瞬間というのは、思いがけず気持ちをあたたかくしてくれる。
週の折り返しである水曜日に、自分をちょっとだけ甘やかすこと。凝ったものでなくていい。前日の準備と、10分の朝の作業があれば十分だ。塩麹が肉をやわらかくしてくれるように、おべんとうは午後への気持ちをやわらかくほぐしてくれる。今日も、あと半分。おいしく乗り切ろう。
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