
目覚ましが鳴る前に、なぜか目が覚めてしまう。月曜日の朝というのは、どうしてこうも独特の重さを持っているのだろう。カーテンの隙間から差し込む七月の朝の光は、すでに白く強くて、額にじんわりと熱を感じるほどだ。布団の中でもう少し、と思いながらも、頭の片隅にはもうお弁当のことが浮かんでいた。
会社に持っていくおべんとうを、月曜日だけは少し丁寧に作ることにしている。きっかけは些細なことで、数年前のある月曜日に、前日の残り物だけを詰めた弁当箱を開けたとき、なんとも言えない気持ちになったのだ。おかずが悪いわけでもない。ただ、週のはじまりにふさわしい気持ちの切り替えが、どこかで必要だと気づいた。それ以来、月曜日のおべんとうには、少しだけ気合いを入れることにしている。
今週作ったのは、鶏の照り焼きと、だし巻き卵、それから茹でたブロッコリーとミニトマト。ご飯には黒ごまをふって、梅干しをひとつ。シンプルだけど、色がちゃんとある。赤・緑・黄色・白。弁当箱の中に色が揃っているだけで、なぜかその日を乗り越えられる気がしてくる。
だし巻き卵は、子どもの頃から好きだった。母が作るそれは、少し甘くて、端のほうがほんのり焦げていて、それがまたおいしかった。自分で作るようになってから、同じ甘さを再現しようと何度も試みたけれど、なぜか微妙に違う。出汁の量なのか、火加減なのか。いまだに謎のままだ。
鶏の照り焼きの作り方はとても簡単で、鶏もも肉に塩こしょうをして、フライパンで皮目からじっくり焼く。醤油・みりん・砂糖を同量ずつ合わせたタレを加えて絡めるだけ。前夜に漬けておくと、翌朝の調理時間が一気に短くなる。七月の朝は台所に立つだけで汗ばむから、できるだけ火の前に立つ時間を減らしたい。換気扇を回しても、油の甘い香りがふわりと漂って、それが意外と心地よかったりする。
弁当箱に詰めるとき、いつも少し悩む。どこに何を置くか。ブロッコリーの緑をどこに配置するか。考えすぎているうちに、ミニトマトをひとつ床に落としてしまった。ころころと転がっていくトマトを追いかけながら、「月曜の朝からこれか」と苦笑いした。拾って洗い直して、無事に弁当箱に収まった。
最近、職場の同僚が「手作り弁当、続けてるんですね」と言いながらコーヒーのカップをそっと渡してくれた。その何気ない仕草が、妙に温かかった。続けることに理由なんてないけれど、そういう小さなやりとりが積み重なって、月曜日がすこしずつ軽くなっていく気がする。
弁当箱は、北欧雑貨ブランド「ノルディッシュ」のウッド調ランチボックスを使っている。蓋を開けるとき、木のパーツがかちりと音を立てる。その音が好きで、昼休みが少しだけ楽しみになる。職場のデスクで蓋を開ける瞬間、朝の台所の香りが一緒に広がるような気がして、それだけで十分、気合いを入れて作ってよかったと思える。
会社という場所は、月曜日の朝がいちばんざわついている。廊下を歩く靴音、パソコンが起動する音、誰かが立てるコーヒーカップの音。そのざわめきの中に、自分で作ったおべんとうをひとつ持ち込むことは、小さな抵抗のようでもあり、静かな楽しみでもある。
月曜日に気合いを入れておべんとうを作ることは、誰かのためでもなく、かといって完全に自分だけのためでもない。なんとなく、一週間のはじまりをちゃんと迎えたい、という気持ちの表れなのかもしれない。完璧でなくていい。ミニトマトを落としたって、だし巻き卵が少し崩れたって、それでいい。弁当箱の蓋を閉めて、バッグに入れる。それだけで、月曜日の朝が、すこしだけ前向きになる。
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