
月曜日の朝はいつも、どこかずっしりと重い。火曜日になるとようやく体が仕事のリズムを思い出してくる。そして水曜日がやってくる。
「週の折り返し」という言葉が頭に浮かぶたびに、ちょっとだけほっとする自分がいる。あと半分、ではなく、もう半分来た、と思えるのが水曜日の不思議な魔法だ。
会社の廊下ですれ違う同僚たちも、なんとなく顔つきが似ている。疲れているけれど、もうひと踏ん張りできる、そんな顔。
そんな水曜日に、わたしはお弁当を持っていくことにしている。
きっかけは小さなことだった。ある水曜日の昼休み、コンビニのサンドイッチを片手に会社のデスクで食べていたとき、隣の席の先輩がお弁当箱をそっと開けた。ふわりと漂ってきたのは、だし巻き卵と醤油の焦げた甘い香り。その瞬間、なぜか胸の奥がじんとした。羨ましいというより、懐かしい、という感覚に近かった。子どもの頃、遠足の朝に母が台所でお弁当を詰めていた、あの音と匂いを思い出したのだ。それ以来、週の折り返しである水曜日だけは、自分でお弁当を作って持っていくようになった。
お弁当作りのスタイルは進化していて、主菜や副菜を朝に全て用意するのではなく、一部を作り置きや冷凍食品を活用することで手間を減らす傾向が強まっている。
それはわたしも同じで、水曜日の朝に全部を作ろうとすると続かない。だから火曜日の夜に少しだけ仕込んでおく。鶏もも肉に醤油・みりん・酒を1:1:1で合わせたタレを揉み込んで、冷蔵庫へ。ブロッコリーは茹でておく。それだけで、翌朝の台所はずいぶん楽になる。
水曜日の朝、六時すぎに起きてフライパンを温める。外はまだ薄暗く、十月の空気が窓の隙間からひんやりと入ってくる。鶏肉をフライパンに乗せると、じゅわっという音と一緒に甘い醤油の香りが立ち上がる。卵を二個割って、少しだけ砂糖を加えて卵焼きを作る。ここが毎回の難関で、今朝も巻こうとしたら途中でぐしゃりと崩れた。思わず「あ」と声が出たけれど、まあいいか、と形を整えて詰めた。断面が少しいびつでも、味は同じだ(自分に言い聞かせている)。
詰め方はシンプルでいい。ごはんを半分、鶏の照り焼き、ブロッコリーのごま和え、そして例の卵焼き。彩りにミニトマトをひとつ。お弁当箱は「ルミナスタンド」という雑貨ブランドの白いホーロー製で、蓋を閉めるとかちりと音がして気持ちがいい。鞄の中に収まったそれは、ずっしりではなくほんのり重い。その重さが、今日一日を少しだけ豊かにしてくれる気がする。
会社に着いて、午前中の仕事をこなす。打ち合わせ、メール、資料の修正。気がつけば十二時を回っている。お弁当箱を取り出して蓋を開けると、朝の台所の記憶がふわりと戻ってくる。隣の席の同僚が「いい匂いですね」と言って、ちらりとこちらを見た。その一言だけで、なんだか報われる。
調査によると、自分用にお弁当を作る人は81.2%と、近年で最も高い数値になっている。
手作りのお弁当には、節約以上の何かがある。時間をかけて作ったものを、自分のために食べるという行為そのものが、週の折り返しに疲れた心をやわらかくほぐしてくれるのだと思う。
水曜日のお弁当は、特別なレシピじゃなくていい。前の夜の残りでも、冷凍食品を一品加えるだけでも。大事なのは、鞄の中にそれがあるという事実だけだ。今日も会社への道を歩きながら、鞄の底のお弁当箱の重さを確かめた。十月の朝の光が、ビルの隙間からまっすぐに差し込んでいた。週の折り返しを、今日もなんとか越えていける気がした。
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**【水曜日のおべんとう・基本レシピ】**
**① 鶏の照り焼き**(前夜仕込み)
鶏もも肉に醤油・みりん・酒を各大さじ1で揉み込み冷蔵。翌朝フライパンで両面焼くだけ。
**② ブロッコリーのごま和え**(前夜作り置き)
茹でたブロッコリーに、すりごま・醤油・砂糖少々を和えるだけ。
**③ だし巻き卵**(当日朝・5分)
卵2個に白だし小さじ1・砂糖少々を混ぜて、フライパンで巻く。崩れてもご愛嬌。
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