
水曜日の朝は、なぜかいつも少しだけ重い。月曜日の緊張感はとっくに溶けて、かといって金曜日の解放感にはまだ遠い。週の折り返し地点というのは、ちょうど山の中腹みたいなもので、頂上も見えなければ麓も遠い。そんな朝に、お弁当箱をひとつ用意することが、私にとっての小さなリセットになっている。
会社に持っていくお弁当を、水曜日だけ少しだけ丁寧に作るようにしたのは、去年の秋のことだった。きっかけは些細なことで、コンビニのサンドイッチを食べながらデスクで過ごしたランチタイムに、なんとなく虚しさを感じたのだ。別に贅沢がしたいわけじゃない。ただ、週の真ん中に、自分で作ったものを食べたかった。それだけのことだった。
最初に作ったのは、卵焼きとご飯とブロッコリーだけのシンプルなお弁当だ。卵焼きは甘めが好きで、砂糖をひとつまみ多めに入れる。フライパンに油をひいて、卵液を三回に分けて巻いていく。うまく巻けなくてもいい。形が崩れても、味は変わらない。そういう開き直りが、水曜日の朝には妙に似合う。
ちなみに一度、寝ぼけたまま作業していたら、砂糖と塩を間違えて入れたことがある。気づいたのは一口食べた後で、「あ、しょっぱい」と思いながらも結局全部食べた。お弁当箱の中で卵焼きだけがやたら主張していたあの日のことは、なぜか今でもよく覚えている。
話を戻すと、水曜日のお弁当に私が特に気に入っているのは「鮭のほぐし混ぜご飯」だ。作り方はとても簡単で、まず甘塩鮭を魚焼きグリルで焼く。皮がパリッとする音がキッチンに広がって、その香ばしさが部屋全体にじんわりと広がっていく。焼き上がったら骨を取り除きながら身をほぐし、白ごまと一緒に温かいご飯に混ぜ込むだけ。仕上げにごま油を数滴たらすと、風味がぐっと深くなる。
おかずは、前の晩の残りものを活用することが多い。きんぴらごぼうや、ほうれん草のおひたし、あるいは冷蔵庫の端に残っていたちくわを斜め切りにして炒めたもの。それらをお弁当箱に詰めるとき、色のバランスを少しだけ意識する。緑と茶色と白。それだけで、なんとなく整って見える。
会社の昼休み、自席ではなく近くの小さな公園のベンチで食べることにしている。「ソラマチ緑地」という名前の、こじんまりとした場所だ。水曜日の昼下がり、十一月の風がほんのり冷たくて、ダウンのポケットに手を突っ込みながらお弁当箱を膝に置く。鮭の香りがふわっと漂って、その瞬間だけ、仕事のことが頭から離れる。
混ぜご飯の塩気と、ごまの香ばしさと、秋の冷気が重なる。誰かに説明するほどのことでもないけれど、その組み合わせが妙に心地よくて、気づくと食べ終わっていた。
子どもの頃、母が作ってくれるお弁当の中で一番好きだったのが、混ぜご飯だった。運動会の日、アルミのお弁当箱を開けると、具だくさんの炊き込みご飯が詰まっていた。鶏肉とにんじんとごぼうの匂いが、秋の校庭の土の匂いと混ざって、今でも思い出すと少し胸が温かくなる。大人になって自分で作る混ぜご飯は、あの日のものとは全然違うけれど、何かが通じている気がしてならない。
水曜日のお弁当は、豪華じゃなくていい。時間をかけすぎなくていい。ただ、自分のために作ったという事実が、午後の仕事をほんの少し軽くしてくれる。週の折り返しに、誰かに見せるためでもなく、評価されるためでもなく、ただ自分のために用意した小さなごほうび。それがあるだけで、水曜日はずいぶんと違う顔をする。
お弁当箱を閉じて、公園を出る。午後の会社へと戻る足取りが、朝よりも少しだけ軽い。それで十分だと、今は思っている。
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