火曜日のおべんとうで、がんばるぞと決めた朝の話

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目が覚めたとき、カーテンの隙間から差し込む光がいつもより少し白かった。5月の火曜日の朝は、なんとなくそういう顔をしている。月曜日の疲れが背中にうっすら残ったまま、それでも今週はまだ長い。会社に向かうまでの時間、台所に立ちながら、ふと思う。今日のおべんとう、ちゃんと作ろうと。

そういえば子どもの頃、母が作ってくれるおべんとうの蓋を開ける瞬間が好きだった。アルミのお弁当箱から湯気がほわっと立ち上って、醤油とみりんの甘い香りがあたりに広がる。あの感覚を、大人になった今もどこかで引きずっている気がする。だから自分で作るおべんとうにも、少しだけこだわってしまう。

2026年の食トレンドとして注目されているのが「ゆる薬膳」。気負わず取り入れられて、気分まで満たしてくれるような、おいしく整えるごはんが支持されている。
そのムードは、おべんとうにもそっと忍び込んできている。派手な映えより、食べてほっとするもの。体に優しくて、でも手間をかけすぎない。そんな一箱を、火曜日の朝に作りたいと思う。

今日提案したいのは「鶏むね肉の梅しそ巻き弁当」だ。材料はシンプル。鶏むね肉・大葉・梅干し・片栗粉・ごま油、これだけでいい。作り方はこうだ。鶏むね肉を薄くそぎ切りにして、梅干しの果肉をたたいたものを表面に薄く塗る。そこに大葉を一枚のせ、くるりと巻いて端を片栗粉で留める。フライパンにごま油をひいて、転がしながら中火で焼くこと約7分。焼き色がついたら蓋をして蒸らせば完成だ。仕上げに少量の醤油を回しかけると、香ばしさがぐっと増す。

ポイントは、片栗粉を薄くはたいておくこと。これをすると表面がしっとりとした膜になって、冷めても固くなりにくい。
電子レンジを活用すると、加熱している間に別のおかずを仕上げることができ、忙しい朝の時短になる。
副菜は小松菜のごま和えをレンジで。小松菜をざく切りにして30秒加熱し、水気を絞ったら、すりごまと醤油・砂糖少々で和えるだけ。緑の鮮やかさが箱の中を明るくしてくれる。

ごはんは白米に黒ごまをひとつまみ散らすだけで、見た目がぐっと締まる。弁当箱は「ツバキノ」という国内の小さなブランドのものを愛用していて、木の蓋が温かみを添えてくれる。蓋を閉めると、梅の酸味と大葉の青い香りがかすかに漂って、ああ今日もちゃんと作ったな、という静かな満足感がある。

ところで先週の火曜日、弁当箱を会社に持っていったはいいが、蓋を開けたら梅しそ巻きが三つとも横倒しになっていて、白いごはんの上に醤油の染みが広がっていた。見た目は完全に事故現場だったが、味は問題なかった。むしろ醤油がご飯に染みて、なんとなくおいしかったかもしれない。心の中で「まあいいか」とつぶやいた。

2026年は「自分ファースト」の意識が高まり、自分の心と体の健康を最優先にする流れが食の世界にも広がっている。
おべんとうを作ることは、そのまま自分を労ることに繋がる。外食が続く週の途中に、自分の手で作った一箱を持っていくこと。それだけで、なんとなく背筋が伸びる感じがする。がんばるぞ、という気持ちが、朝の台所から静かに始まる。

火曜日の昼休み、窓から見える空は少し霞んでいる。職場の同僚がコーヒーを持ってきてくれて、湯気が細く立ち上るのを見ながら弁当箱の蓋を開ける。今日は崩れていなかった。梅の酸味が口の中にひろがって、大葉の香りが鼻をかすめる。ああ、これでいい。会社の昼休みは短いけれど、この十数分だけは自分のための時間だ。

簡単なおべんとうでいい。毎日じゃなくてもいい。でも火曜日くらいは、自分の手で作った一箱を持っていく。それが、週の真ん中をやり過ごすための、小さくて確かな支えになっている。
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