
木曜の夜、台所に立ちながらふと思った。明日は金曜日で、しかも明日は休みだ。週に一度だけ訪れるその感覚——仕事終わりの開放感が、もう夜のうちから少しだけ漂ってくる、あの独特の軽さ。だったら、明日のおべんとうくらい、自分のために少しだけ手をかけてみようか。
冷蔵庫を開けると、鶏もも肉がひとつ、半端に残った大葉が数枚、それから昨日の残りのごはん。完璧な食材ではないけれど、そのくらいの「余り物感」がかえってちょうどいい。特別な日のおべんとうに、特別な食材は要らないのかもしれない。
前日の夕飯作りのついでに、お弁当の材料をまとめておくだけで、翌朝に冷蔵庫から容器を取り出してすぐ調理が始められる。
その手軽さを知ってから、木曜の夜がすこし好きになった。
鶏もも肉に塩麹をもみ込んで、ジッパーバッグに入れて冷蔵庫へ。これだけで翌朝の下準備は終わりだ。子どもの頃、母がよく前の晩から下味をつけていた。「肉は寝かせた方がおいしいんよ」と言いながら、小さな手でもみもみしていた記憶がある。当時はその意味がよくわからなかったけれど、今になってようやくわかる気がする。
翌朝、金曜日の朝7時。夏の朝らしく、カーテンの隙間からもう白っぽい光が差し込んでいた。フライパンに油を引いて、前夜に仕込んだ鶏もも肉を皮目から焼く。じゅうっという音と、塩麹の甘い香りが台所に広がる。ほんのり焦げた皮の匂いが、眠気を引き剥がすように鼻をくすぐった。
焼き上がった鶏肉を斜めに切って、大葉を敷いたごはんの上にのせる。卵焼きはだし巻きではなく、今日はシンプルに塩だけ。それと、冷凍しておいたブロッコリーをレンジで温めて、架空のインテリア雑貨ブランド「HANA BAKO」のくすんだ緑色のお弁当箱にきっちり詰めていく。詰め終わったとき、ちょっと傾けすぎてブロッコリーが一つ転がり落ちた。拾って戻したけど、誰も見ていないのに「あ、やってしまった」と思った(自分だけのお弁当なのに、なぜか丁寧に詰め直した)。
会社に着いて、昼休みにそのお弁当を開けた瞬間、塩麹の香りがふわっと広がった。隣の席の同僚が「いい匂いですね」と顔を上げた。それだけで、なんとなく今日の昼がすこし豊かになった気がした。
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**【金曜日のごほうびおべんとう:簡単レシピ】**
**塩麹チキンのせごはん弁当**
▷ 材料(1人分)
– 鶏もも肉 1/2枚
– 塩麹 大さじ1
– 大葉 3〜4枚
– 卵 1個
– ブロッコリー 適量
– ごはん 適量
▷ 作り方
1. 前夜に鶏もも肉に塩麹をもみ込み、ジッパーバッグで冷蔵庫へ。
2. 翌朝、フライパンで皮目からじっくり焼く(中火で4〜5分、裏返して3分)。
3. 卵は塩だけで薄焼きにして、くるくる巻いて卵焼きに。
4. ブロッコリーはレンジ600Wで1分30秒。
5. お弁当箱にごはんを詰め、大葉を敷いて鶏肉を斜め切りにのせる。
疲れた日に自分をいたわる一品が、明日への活力になる。
それは、外食でも市販のお弁当でもなく、自分の手で作ったものだからこそ、余計にそう感じるのかもしれない。
金曜日のおべんとうは、会社への義務じゃなくて、一週間がんばった自分への小さなご褒美だ。明日は休みだし、今夜はちょっと丁寧に、冷蔵庫の前に立ってみてほしい。
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