
目が覚めたとき、カーテンの隙間からまだ柔らかい朝の光が差し込んでいた。時刻は六時十七分。水曜日の朝というのは、なんとなく独特の重さがある。月曜日の緊張はとうに溶けて、でも金曜日の解放感にはまだ届かない。週の折り返し地点——その言葉が、頭の中でぼんやりと浮かんでは消えた。
シンクに立って、冷蔵庫を開ける。昨夜の残りの鶏の唐揚げが三個、ラップに包まれてちょこんと座っていた。卵が二つ。ほうれん草の束が半分。それだけで十分だ、と思った。水曜日のおべんとうは、凝りすぎなくていい。むしろ、ほんの少し自分を甘やかすくらいがちょうどいい。
フライパンに油をひいて、卵を割る。白身がじゅわっと広がる音と、ほんのり焦げた醤油の香りが台所に満ちる。その香りを嗅ぐたびに、小学生の頃の記憶が蘇ってくる。母が毎朝五時半に起きて、弁当箱に卵焼きを詰めてくれていたあの台所の匂い。甘めの出汁巻きで、端っこが少し焦げていて、それが一番好きだった。自分で作るようになってからも、なぜかその「少し焦げた端っこ」だけは再現できない。今日もきれいに焼けてしまった。
ほうれん草をさっと茹でて、水気を絞る。指先に冷たい感触が伝わる。夏の朝なのに、水だけはひんやりと冷たくて、それが妙に心地よかった。
唐揚げを並べ、卵焼きを切り、ほうれん草のおひたしを添える。白いご飯の上に梅干しをひとつ。弁当箱は、去年の春に雑貨店「ハコノモリ」で買った、くすんだオリーブグリーンのアルミ製のもの。蓋を閉めると、かちりと小気味よい音がした。
会社に着いて、昼休みになる。同僚の田中さんが「今日のお弁当、なに?」と聞いてくる。「唐揚げと卵焼き」と答えると、「いいなあ」と少し羨ましそうな顔をした。コンビニのサンドイッチを片手に持ちながら。水曜日の昼どきというのは、なぜかみんな少しだけ疲れた顔をしている。週の折り返しを越えようとしている、そういう顔だ。
自分で作ったお弁当を開けるとき、ちょっとだけ気持ちが上がる。それは、誰かに褒められるためじゃなく、「今朝の自分、ちゃんとやったな」という小さな確認のような感覚に近い。唐揚げは冷めてもしっとりしていて、卵焼きはやっぱり端がきれいだった。梅干しの酸っぱさが、眠気を少しだけ飛ばしてくれた。
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**水曜日の簡単おべんとう:唐揚げ&卵焼き弁当の作り方**
前夜の唐揚げが残っているなら、それをそのまま詰めるだけでいい。なければ、鶏もも肉を一口大に切り、醤油・みりん・にんにく(チューブ少量)に10分漬けて、片栗粉をまぶして揚げるか、フライパンで揚げ焼きにする。
卵焼きは、卵2個に対して、砂糖小さじ1、醤油少々、だし少々を混ぜ、弱火でゆっくり巻くだけ。焦らずに、三回に分けて巻くのがコツだ。
ほうれん草のおひたしは、茹でて水気を絞り、めんつゆを少し垂らすだけで完成する。これだけで、彩りと栄養のバランスが一気に整う。
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水曜日という日は、会社でも家でも、なんとなく「こなす」モードになりがちかもしれない。でも、お弁当箱のふたを開けた瞬間だけは、ちゃんと自分のための時間になる。週の折り返しを越えるための、小さなごほうび。そう思えば、今朝の六時十七分に起き出した自分のことを、少しだけ好きになれる気がした。
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