
金曜日の朝は、なんとなく空気が違う。
目覚ましが鳴る前に目が覚めて、カーテンの隙間から差し込む十月の朝の光が、いつもよりすこしだけやわらかく見えた。窓を開けると、ひんやりした風が鼻先をかすめる。金木犀の香りが、どこからともなく漂ってくる。ああ、秋だ。そして、今日は金曜日だ。明日は休みだ——その事実だけで、なんとなく背筋が伸びる気がした。
会社のデスクに着くまでの時間、電車の中でぼんやりと考える。今週はよく頑張った。月曜の朝から積み上げてきた仕事の疲れが、金曜の朝にはちゃんと「やり切った感」に変わっている。だから今日のおべんとうは、そんな自分へのご褒美でいい。凝りすぎず、でも手を抜きすぎず。ちょうどいい、「金曜日らしいおべんとう」を作りたかった。
キッチンに立って、冷蔵庫を開ける。豚こま肉、大葉、キャンディチーズ。昨日の夜に買っておいた食材たちが、整然と並んでいた。今日作るのは「シソチーズ豚こまボール」だ。作り方はとても簡単で、キャンディチーズに豚こま肉と大葉を巻いて、フライパンで焼くだけ。冷めてもおいしいのが、おべんとうにはうれしい。豚肉の旨味、チーズのとろける感じ、大葉のさわやかな香り——三つが重なると、それだけで小さな幸福が生まれる。
フライパンに油を引いて火をつけると、じゅわっという音が台所に広がった。肉の焼ける香ばしい匂いが部屋に満ちていく。このとき、うっかりチーズを一個多く巻きすぎたことに気づいたのだが、まあ、それはそれで良しとした(会社でひとりこっそり「あ、多い」と思いながら食べるのも、悪くない)。
副菜には、電子レンジだけで作れる「さつまいものバターしょうゆ」を添えた。さつまいもの甘さにバターのコクが絡んで、しょうゆのアクセントが後を引く。調理時間はたったの10分。金曜日の朝にちょうどいい、手のかからない一品だ。
ごはんは少し多めに詰めた。明日は休みだから、今日の昼はゆっくり食べたい。会社のランチルームで、お気に入りのカトラリーブランド「ノルテ・テーブル」のフォークとスプーンをポーチから出して、窓際の席に座る。十月の昼の光が、弁当箱の蓋を外した瞬間にさっと差し込んできた。
子どもの頃、母が作ってくれる金曜日のおべんとうは、いつも少しだけ豪華だった。唐揚げか、卵焼き、それから好きなふりかけ。週末が近いというだけで、なぜかおかずの数が増えていた気がする。あの頃の感覚を、大人になった今も、どこかで引きずっているのかもしれない。金曜日のおべんとうには、特別な意味がある。
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**【金曜日のおべんとう:シソチーズ豚こまボールの簡単レシピ】**
▷ 材料(1人分)
– 豚こま肉…100g
– キャンディチーズ…4〜5個
– 大葉…4〜5枚
– 塩・こしょう…少々
– サラダ油…適量
▷ 作り方
1. 大葉を1枚広げ、キャンディチーズをのせて豚こま肉で包む。塩・こしょうで下味をつける。
2. フライパンに油を熱し、中火で転がしながら全面に焼き色をつける(約5〜6分)。
3. 火が通ったら取り出し、弁当箱に詰める。
ポイントは、巻きがゆるいとチーズが溶け出してしまうこと。しっかりと肉で包むのが、きれいに仕上げるコツだ。
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金曜日のおべんとうを食べ終えて、空になった弁当箱の蓋を閉める。外はすっかり秋の空で、会社の窓から見える銀杏の葉が、少しずつ黄色に色づき始めていた。ああ、今週も終わる。明日は休みだ。
その小さな喜びを、おべんとうひとつが、ちゃんと運んでくれていた。
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