火曜日のおべんとう、会社へ持っていくだけで「がんばるぞ」が本物になる話

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月曜日を乗り越えた朝というのは、妙に清々しい。目覚ましが鳴る前に自然と目が開いて、「ああ、今日は火曜日だ」とひとりごちる。週の真ん中にはまだ遠いけれど、なんとなく、リズムが戻ってきた感じがする。そんな火曜日の朝に、わたしはおべんとうを作ることにしている。

台所に立つと、窓の外から九月らしい風が入ってきた。夏の名残を引きずりながらも、どこかひんやりした空気。カーテンの端がふわりと揺れる。フライパンをコンロに乗せると、薄く引いたごま油がじわりと温まる音がして、それだけで少し、気持ちが整う気がした。

今日のおべんとうのメインは、鶏もも肉の照り焼き。シンプルだけど、これが一番、昼に食べたときに「ちゃんとごはんを食べている」という満足感をくれる。作り方は拍子抜けするほど簡単だ。鶏もも肉に醤油・みりん・酒を大さじ1ずつ合わせたタレをもみ込んで10分置く。フライパンに皮目を下にして並べ、中火でじっくり焼く。皮がきつね色になったら裏返し、残ったタレを回しかけてふたをして蒸し焼き。最後に強火でタレを絡めれば完成だ。片栗粉を薄くまぶしておくと、タレがよく絡んでつやつやに仕上がる。

副菜は、ピーマンとちりめんじゃこの炒め物。ピーマンを細切りにして、ごま油で炒め、ほんだしと醤油、みりんで味をつけるだけ。仕上げにかつお節をひとつまみ。これを作り置きしておくと、朝はただ詰めるだけでいい。冷めても味がしっかりしているから、おべんとうにはうってつけだ。

卵焼きは、だし巻き風に。卵2個に白だしを小さじ1、砂糖をひとつまみ。よく溶いて、油を薄く引いた卵焼き器で三回に分けて巻く。これが意外と難しくて、今朝も最後の一巻きで少し崩れた。まあ、形より味、と自分に言い聞かせながら弁当箱の隅に押し込んだ(崩れた卵焼きは、なぜか自分だけが食べるときにいちばんおいしく感じる気がする)。

ごはんは、前夜に炊いておいたものを温め直す。白いごはんをふんわりと詰めて、梅干しをひとつ。梅干しは、近所の小さな直売所「つちや農園の梅」というラベルが貼られたもので、塩気と酸味のバランスがちょうどよく、一度食べてから手放せなくなった。

子どもの頃、母が作ってくれたおべんとうには、必ず赤いウインナーが入っていた。タコの形に切られた、あの小さな存在感。遠足の日の朝、母が台所でハサミを入れる音を聞きながら、「ちゃんと開くかな」とドキドキしていたのを覚えている。おべんとうというのは、作る側の小さな気持ちが、蓋を開けた瞬間に伝わるものだ。

会社に着いて、デスクに荷物を置く。午前中の仕事をひとつひとつ片付けながら、心のどこかで昼を楽しみにしている自分がいる。「がんばるぞ」という気持ちは、気合いで生まれるものじゃなくて、こういう小さな楽しみが積み重なってできるものかもしれない。

昼休み、窓際の席でおべんとうの蓋を開ける。照り焼きの甘いにおいがふわりと広がって、隣の同僚が「いいにおい」とつぶやいた。それだけで、今日の朝の30分が報われた気がした。

火曜日のおべんとうは、月曜日の疲れをリセットして、週の後半へ向かうための、小さな燃料だ。凝ったものじゃなくていい。冷めてもおいしくて、詰めやすくて、食べたあとに「よし」と思えるもの。それだけで十分、一日が変わる。
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