木曜日のおべんとう——会社まで、もう一息の午前に詰める、小さなごほうび

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目が覚めたとき、カーテンの隙間から差し込む光が、まだどこか眠たそうな色をしていた。九月の朝は、夏の名残と秋の入り口がちょうど混ざり合って、窓を開けると生ぬるい風と、かすかに金木犀に似た何かが漂ってくる。正確には金木犀ではない、近所の植木か何かだと思うのだけど、毎年この季節になると同じ香りがして、なぜかそれだけで少し気持ちが落ち着く。

木曜日だ。

月曜日の張り切りも、火曜日の現実も、水曜日のため息も、全部越えてきた。あとは今日と明日だけ。会社まで、もう一息。そう思いながらキッチンに立つと、なぜか手が少しだけ軽くなる気がする。お弁当を作ろう、と思う。

2026年の調査では、自分用にお弁当を作る人が81.2%に達し、過去最高を記録した
というデータがある。お弁当は「作ってもらうもの」から「自分で持参するもの」へと、静かに、でも確実に変わってきている。節約のためという人もいれば、ランチタイムの混雑した店に並ぶのが面倒という人もいる。でも私の場合、正直なところ、木曜日の朝にお弁当を詰める、あのひとときが好きなのだと思う。

今日のメニューは、鶏の照り焼きと、だし巻き卵、それと前日の夜に炊いておいたご飯。シンプルすぎると思うかもしれないけれど、
「人の手のぬくもり」を感じる、地味だけど落ち着く味
というのが、今の時代にじわじわ見直されている。手の込んだものより、ちゃんと火を通して、ちゃんと味をつけた、ごく普通の一品のほうが、昼どきに弁当箱を開けたとき、ほっとする。

作り方は拍子抜けするほど簡単だ。鶏もも肉は一口大に切って、醤油・みりん・砂糖を同量ずつ合わせたタレに10分ほど漬けておく。フライパンを中火で熱し、皮目から焼いて、両面に焼き色がついたらタレを加えて絡めるだけ。だし巻き卵は、だし大さじ2、醤油少々、卵3個を混ぜ、巻きながら焼く。慣れないうちは形が崩れるけれど、それはそれで愛嬌がある。ちなみに先週、タレを加えるタイミングを完全に間違えて鍋肌に焦げをつけてしまい、朝から換気扇をフル回転させるはめになった。木曜日の朝に煙感知器が鳴りかけるのは、さすがに笑えない。

お弁当箱は、保存容器(コンテナ)をメインで使う人が約3割に上り、オフィスで電子レンジ温めて食べるスタイルが定着している
という。私も最近、「ハコネル」というブランドのガラス製コンテナを使い始めた。密閉性が高く、バッグの中で汁漏れしないし、そのまま電子レンジに入れられる。見た目も悪くなくて、会社の休憩室でふたを開けるとき、少しだけ誇らしい気持ちになる。

お弁当作りの悩みの第一位は「メニューのマンネリ」で、61.8%の人がそれを挙げている
。わかる、と思う。月曜に照り焼き、火曜に照り焼き、水曜も照り焼き、という週が存在した。それでも木曜日だけは、なぜか少し違うものを詰めたくなる。週の終わりが見えてきたからかもしれない。今日は彩りに、冷蔵庫に残っていたミニトマトとほうれん草のごま和えを加えた。赤と緑がそろうと、急に弁当箱の中が賑やかになる。

ご飯を詰め、おかずを並べ、ふたをして、バッグに入れる。その一連の動作が、木曜日の朝のちょっとした儀式になっている。

昼休み、会社の窓際の席でふたを開ける。外はまだ残暑の気配が残っていて、ガラス越しの光が斜めに差し込んでいた。隣の席の同僚が「いい匂い」と言いながら、自分のコンビニおにぎりをそっと遠ざけた。なんとなくおかしくて、でも何も言わずにただ笑った。

木曜日のお弁当は、味よりも、詰めた朝のことを思い出しながら食べるものだと思っている。もう一息、という言葉が、弁当箱の底にこっそり書いてあるような気がして、それだけで午後がちょっとだけ軽くなる。
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