
目が覚めたとき、カーテンの隙間から光が差し込んでいた。秋の朝らしい、やわらかくて少し斜めな光だ。時計を見ると七時十五分。日曜日の朝は、いつもなぜかこの時間に自然と目が覚める。
台所に立つと、前の晩に炊いておいたご飯の香りがうっすら残っていた。鍋の中のだし汁が、ちいさくことことと音を立てている。この音が好きだ。子どもの頃、母が朝早くから台所に立っていて、その音で目が覚めた記憶がある。布団の中でまだ眠いふりをしながら、あの音を聞いていた。あれは確か、運動会の前日だったか、遠足の前夜だったか。とにかく、だしの音には「特別な日の前夜」という気配が染みついている。
今日は家族で近くの丘陵公園、通称「ナナクサの丘」に出かける予定だ。野外でシートを広げて、ゆっくりお弁当を食べる。それだけのことなのに、前の晩から少しだけ気持ちが浮き立っていた。
まず卵焼きから始めた。卵三個をボウルに割り、みりんと薄口しょうゆを少量、それに出汁を大さじ一杯だけ加えてよく混ぜる。フライパンを中火にかけ、油をなじませてから卵液を三回に分けて流し込む。巻いては押さえ、巻いては押さえ。この繰り返しが少し好きだ。ただ、今朝は二回目を巻くタイミングが早すぎて、端がぐずぐずになってしまった。まあ、味は変わらない。家族には「ラフな仕上がりがトレンドです」と言い張るつもりだ。
次に鶏のから揚げ。前夜のうちに鶏もも肉を一口大に切り、しょうゆ・酒・おろし生姜・おろしにんにくで下味をつけておいた。片栗粉をまぶして揚げるだけなのに、油の中でじゅわっと音を立てる瞬間は何度やっても少し緊張する。きつね色になったら取り出し、キッチンペーパーの上に並べる。香ばしい匂いが台所に広がって、奥の部屋で眠っていた子どもが起きてきた。「いいにおいがする」と言いながら目をこすっている。その寝ぐせの具合が、なんとも愛おしい。
ブロッコリーは小房に分けて塩茹でにする。2026年は指定野菜として注目されているだけあって、スーパーでも手に入りやすくなった。茹で時間は二分ほど。色鮮やかな緑がお弁当箱の中を明るくしてくれる。梅干しを崩してあえたご飯をおにぎりにして、黒ごまを少し振る。
お弁当箱は、インテリア雑貨ブランド「ハコモリ」の曲げわっぱ風のもの。木の香りとまではいかないけれど、ご飯がほどよく落ち着く感じがして気に入っている。仕切りを使ってから揚げ、卵焼き、ブロッコリーを詰め、隙間にミニトマトを入れる。赤と緑と黄色。色だけでもう、ちゃんとごちそうに見える。
「ナナクサの丘」に着いたのは十時過ぎだった。秋の空気は澄んでいて、風が草を揺らすたびに乾いた葉の香りがした。シートを広げて座ると、地面の硬さがじんわりと伝わってくる。遠くで子どもたちが走り回り、笑い声が風に乗って流れてくる。
お弁当を開けたとき、子どもが「わあ」と言った。その一言だけで、朝の手間がすべて報われる気がした。家族でシートの上に座って、野外の風を感じながら食べるご飯は、どんなに手の込んだ料理よりも美味しく感じられる。から揚げをほおばりながら、夫が「これ、お店より旨いな」と言う。本当かどうかはわからないけれど、悪い気はしない。
日曜日の昼下がり、青空の下でお弁当を食べるというのは、ただそれだけのことだ。でも、その「ただそれだけのこと」が、長く記憶に残ることを、大人になってから知った。子どもたちも、いつかこの日のことを思い出すだろうか。だしの音とともに。
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