
金曜日の朝は、いつもよりほんの少しだけ軽やかだ。会社に向かう電車の窓から見える風景も、なぜか昨日までと違って見える。明日は休みだという事実が、まだ始まってもいない一日に小さな余白を与えてくれる。そんな金曜日の朝に持っていくおべんとうは、ただの昼食ではなく、ささやかな自由の象徴のようなものかもしれない。
私が最近気に入っているのは、「週末前夜弁当」と勝手に名付けた、少しだけ贅沢な気分を味わえるおべんとうだ。といっても、特別な食材を使うわけではない。いつもの冷蔵庫にあるもので作れる、でもどこか特別感のある組み合わせ。たとえば、鶏むね肉を使った柚子胡椒照り焼きと、彩り野菜のマリネ、それに雑穀ごはん。この三つがあれば、金曜日の昼休みが少しだけ豊かになる。
鶏むね肉は一口大に切って、酒と醤油で下味をつけておく。フライパンに少量の油を引いて焼き、表面に焼き色がついたら、みりんと醤油、そして柚子胡椒を小さじ半分ほど加える。ここで火を少し弱めて、タレを絡めるように焼く。柚子胡椒の爽やかな辛みが、鶏肉の淡白さを引き立ててくれる。これを前日の夜に作っておけば、朝は詰めるだけでいい。
野菜のマリネは、パプリカ、ズッキーニ、ミニトマトなど、色の鮮やかなものを選ぶといい。薄切りにした野菜をさっと茹でるか、軽くグリルして、オリーブオイル、白ワインビネガー、塩、ブラックペッパーで和える。冷蔵庫で一晩寝かせると、味がなじんで格段に美味しくなる。このマリネを作るとき、私はいつも「ヴェルディーノ」という架空のイタリアンデリを思い浮かべる。実在しない店だが、頭の中では確かに存在していて、白いタイル張りのカウンターに色とりどりの惣菜が並んでいる。
ある金曜日の朝、急いでおべんとうを詰めていたとき、マリネの汁を少しこぼしてしまった。キッチンカウンターに広がるオリーブオイルの染みを拭きながら、なぜか笑ってしまった。明日は休みだという安心感が、小さな失敗さえも許してくれる気がしたのだ。
会社の給湯室で、同僚がコーヒーカップを私に渡しながら「今日のお弁当、いい匂いするね」と言った。蓋を開けると、柚子胡椒の香りがふわりと立ち上る。その瞬間、午後の会議のことも、溜まっているメールのことも、少しだけ遠くに感じられた。金曜日の昼休みは、そういう小さな魔法がかかる時間だ。
雑穀ごはんには、黒米や赤米、もち麦などを混ぜている。白米だけよりも食感が楽しく、噛むほどに味わいが増す。炊くときに昆布を一切れ入れておくと、ほのかな旨味が加わって、おかずとの相性もよくなる。
このおべんとうを作り始めたのは、子どもの頃の記憶がきっかけだった。母が金曜日だけ、いつもより少し豪華なおかずを作ってくれていたことを思い出したのだ。それは唐揚げだったり、ハンバーグだったりしたけれど、「明日は休みだから」という母の言葉とともに食べるそれらは、特別な味がした。大人になった今、自分でおべんとうを作るようになって、あの感覚を再現したくなったのだ。
金曜日の午後、デスクでおべんとうを食べ終えたあと、窓の外を見る。秋の午後の光が、オフィスビルの壁をやわらかく照らしている。明日は休みだ。その事実が、残りの午後の仕事に不思議な軽さを与えてくれる。
おべんとうは、ただの食事ではない。それは自分自身への小さな贈り物であり、一日を支える静かな力でもある。特に金曜日のおべんとうは、週末への橋渡しのような存在だ。疲れた体に優しく、でも心はちょっとだけ浮き立つような、そんなおべんとうを持っていくだけで、金曜日はもっと好きな曜日になる。
柚子胡椒の爽やかな辛みと、マリネの酸味、雑穀ごはんの素朴な甘み。それらが口の中で混ざり合うとき、ふと、明日の朝はゆっくり起きようと思う。そして、また来週の金曜日には、どんなおべんとうを作ろうかと考える。そんな小さな楽しみが、日々を支えてくれている。
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