金曜日のおべんとうには、少しだけ贅沢を詰め込んで

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金曜日の朝は、いつもとほんの少しだけ空気が違う。窓の外にはまだ青白い光が残っていて、台所の換気扇が回る音だけが静かに響いている。明日は休みだ。その事実がどこか心を軽くして、包丁を握る手にもいつもより余裕が宿る気がする。会社へ持っていくおべんとうを作りながら、私はいつも考える。金曜日には、ほんの少しだけ特別なものを詰めてもいいんじゃないかと。

この習慣が始まったのは、たしか三年ほど前の春だった。当時の上司が、ふとした雑談の中で言ったのだ。「金曜のランチはね、ちょっといいもの食べたくなるんだよ」と。その言葉が妙に心に残って、それ以来、週末を前にした金曜日には少しだけ手をかけたおべんとうを作るようになった。

たとえば、鶏の照り焼きに山椒を効かせてみる。作り方は驚くほどシンプルだ。鶏もも肉を一口大に切って、醤油と酒、みりんを各大さじ二杯ずつ混ぜたタレに十分ほど漬け込む。フライパンに油を引いて中火で焼き、皮目から焼き色をつけたら裏返し、蓋をして蒸し焼きにする。最後にタレを回し入れて煮詰め、仕上げに粉山椒をひとふり。これだけで、いつもの照り焼きが少しだけ大人の味になる。山椒の香りが立ち上る瞬間、私はいつも小さく息を吸い込んでしまう。

その隣には、卵焼きを詰める。だし巻きではなく、少し甘めの卵焼き。砂糖を小さじ一杯多めに入れるだけで、どこか懐かしい味になる。子どもの頃、母が作ってくれた卵焼きもこんな味だった。当時は甘い卵焼きが少し恥ずかしくて、友達の前では「うちのは普通だよ」なんて言っていたけれど、今ではこの甘さがたまらなく愛おしい。

彩りには、茹でたブロッコリーとミニトマトを添える。ブロッコリーは塩を入れた熱湯で二分ほど茹でて、ざるに上げたらそのまま冷ます。水にさらさないほうが、水っぽくならずに美味しい。ミニトマトはヘタを取って、キッチンペーパーで水気を拭く。このひと手間が、おべんとう箱の中で水分が出るのを防いでくれる。

そしてもうひとつ、金曜日のおべんとうに欠かせないのが、ちょっとした”お楽しみ”だ。たとえば、デパ地下で買った「ラ・メゾン・ドゥ・フロマージュ」のチーズを小さく切って忍ばせておく。あるいは、前夜に仕込んでおいた自家製のピクルス。きゅうりと人参、パプリカを薄切りにして、酢と砂糖、塩を混ぜた液に漬けておくだけ。冷蔵庫で一晩寝かせれば、翌朝にはちょうどいい酸味が染み込んでいる。

ご飯には、梅干しをひとつ。それから、ごま塩を軽くふる。シンプルだけれど、これが一番落ち着く。おかずが少し濃い味だから、ご飯はこれくらいがちょうどいい。

おべんとう箱の蓋を閉める瞬間、私はいつも少しだけ満足した気持ちになる。この小さな箱の中に、今朝の静けさと、金曜日の高揚感と、週末への期待が全部詰まっている気がするから。

会社の昼休み、デスクでおべんとうを開ける。隣の席の同僚が、ちらりとこちらを見て「今日もいい匂いですね」と微笑む。彼女はいつもコンビニのサンドイッチを食べているけれど、たまに私のおべんとうを羨ましそうに眺めている。先週、思い切って「よかったら卵焼き、ひとつどうぞ」と差し出したら、彼女は少し驚いた顔をして、それから嬉しそうに受け取ってくれた。そのときの彼女の笑顔が、なんだか温かくて、少し照れくさかった。

金曜日の午後は、いつもより早く過ぎていく気がする。おべんとうを食べ終えて、温かいほうじ茶を一口飲む。窓の外には初夏の陽射しが差し込んでいて、遠くで誰かが笑う声が聞こえる。明日は休みだ。その言葉を心の中で繰り返しながら、私はゆっくりと午後の仕事に戻る。

ちなみに、先週の金曜日、おべんとう箱を開けたら卵焼きが少し傾いていて、ブロッコリーの上に倒れ込んでいた。丁寧に詰めたつもりだったのに、通勤電車の揺れには勝てなかったらしい。それでも味は変わらないし、むしろ少しくずれたおべんとうのほうが、手作りらしくて愛嬌があるような気もする。完璧じゃなくていい。そう思えるのも、金曜日の魔法かもしれない。

おべんとうを作ることは、誰かのためでもあるけれど、何より自分のための小さな儀式だ。金曜日の朝、少しだけ早起きして、少しだけ手をかける。その時間が、一週間を締めくくる静かな贅沢になっている。
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